1分でわかる大崎事件の疑惑
- 1979年の殺人事件で被害者の近親者が4人逮捕
- 裁判には不可解な点があり、地裁と高裁が再審を認めた
- 最高裁は地裁と高裁の判断を覆し再審を取り消し
大崎事件の概要
「大崎事件」は1979年に起こった死体遺棄事件です。容疑者として逮捕されたのは、被害者の近縁者4人でした。鹿児島地裁は4人に有罪判決を下し、懲役刑が執行されましたが、容疑者達の冤罪の可能性が指摘されています。 事件の概要と冤罪説について触れていきます。
1979年に鹿児島で起きた殺人事件
1979年10月15日、鹿児島の大崎町にある農家で42歳男性の遺体が発見されました。その後、被害者の長兄と次兄、甥、そして長兄の妻の4人が順番に容疑者として逮捕されました。 事件は長兄の妻が主犯格と目され、保険金を目当てとして他の3人を巻き込んで殺害し、死体遺棄したものと考えられました。凶器はタオルで、殺害方法は絞殺でした。 鹿児島地裁は長兄の妻に懲役10年、長兄に懲役8年、次兄に懲役7年、甥に懲役1年の有罪判決を下しました。
冤罪の主張
「大崎事件」の主犯格とされた長兄の妻は判決を不服として控訴しますが、福岡高裁、最高裁ともに棄却しました。この時、長兄と次兄、甥は控訴していません。 この判決に関連して、冤罪の可能性が指摘されています。共犯者として刑の確定した長兄、次兄、甥の3人には知的障害または精神障害があったとされているのです。 「大崎事件」の有罪判決は共犯者3人の自白による部分が大きいものの、知的障害または精神障害についてはまったく考慮されませんでした。このため証言の信用性に疑問があり、長兄の妻が一貫して否認していることも考え合わせて、冤罪ではないかと言われています。
取り消された再審請求
「大崎事件」は2017年に鹿児島地裁が再審開始を決定したことを皮切りに、福岡高裁宮崎支部も2018年に再審を認めました。しかし最高裁は一転して鹿児島地裁と福岡高裁の判断を覆し、再審を取り消しました。 再審の判断と取り消しに至った経緯について解説します。
地裁と高裁は再審開始を認めた
「大崎事件」の再審請求はこれまで3度行われました。1度目は2002年から2006年、3度目は2010年から2015年にかけて行われましたが、いずれも最終的には認められませんでした。 今回棄却された3度目の再審では、新しい証拠として最新の法医学鑑定書と心理学鑑定書が提出されました。それらは従来の判決の根拠となっていた死因(絞殺による窒息死)、共犯者の証言を否定するものでした。 鹿児島地裁、福岡高裁宮崎支部は新証拠を一部採用し、長兄と妻についての再審を認めました。
最高裁が再審請求を棄却
福岡高裁は2018年に、「大崎事件」の被害者は窒息死ではなく事故死だった可能性が高いと判断し、再審を認めました。 ところが最高裁第は新しい法医学鑑定書について、過去の鑑定記録から類推したに過ぎず、証拠能力がないという判断を下しました。このため再審決定が覆ったのです。 なお、最高裁が地裁と高裁が認めた再審を取り消したのは今回が初めてのケースです。
裁判で開示されなかった多数の証拠
3度目の再審請求は死因の食い違いを証拠に行われましたが、最高裁によって棄却されました。実は「大崎事件」には、この他にも裁判で採用されなかった証拠が大量に存在します。 再審請求では当初から弁護団が検察に、被告を犯人とする証拠の開示を求めていました。これに対して検察側は、すでに出したもの以外にはないと拒否し続けていました。 しかし2度目の再審請求の際、警察および検察から存在しないとされていた証拠が213点も出てきました。3度目の再審請求では、追加で18点のネガフィルム(写真)も出てきたのです。 最高裁は新しい鑑定書を証拠能力不十分として再審を棄却しましたが、これらの証拠が最初の刑事裁判で提出されていれば、有罪判決自体が変わっていた可能性があります。
最高裁の意義とは?
最高裁は日本における司法機関の最高峰に当たります。一般的には地裁などの判決で不服や異議があった際、高裁で再度審理が行われ、高裁でも決着しなかった場合に最後に判断が委ねられる場所とされています。 実のところ最高裁は、事件の事実関係の調査よりも、憲法違反や法令違反を見定める場所だとされています。通常であれば、多数の証拠が最初の裁判に提出されてないことが判明した時点で、最高裁が再審に取り組んでいてもおかしくないはずです。 ところが「大崎事件」に限っては、3度目の再審請求でなぜか最高裁が事実関係を検討し、前例のない地裁および高裁の判断を覆す再審取り消し決定を行いました。 最高裁は重要な司法機関ですが、今回の問題で存在意義に疑問が持たれるようになりました。
冤罪事件はなくならないのか
司法が発達した現代においてすら、冤罪事件の発生が後を絶ちません。冤罪が起こる背景には、無実の人が犯罪を行ったという誤解や思い込み、そして捜査機関などの不透明さが原因として挙げられます。 特に警察と検察などの捜査機関の不透明さは、違法捜査や違法取り調べに繋がるので、そこから自白強要による冤罪の温床になりかねません。虚偽の密告が発生する司法取引も同様です。 冤罪事件をなくすためには、捜査機関や司法機関の制度改革、そして司法制度の見直しが必要不可欠です。