1分でわかる地下鉄サリン事件

地下鉄サリン事件は1995年に東京で発生した同時多発テロ事件です。 オウム真理教という宗教団体が通勤時間帯の地下鉄車両内に猛毒のサリンを散布し、これによって乗客及び乗務員などに多数の被害者が出ました。 大都市の中で化学兵器であるサリンが無差別に使われるという、当時としては世界的にも例がない凶悪なテロ事件でした。
- 首都東京の地下鉄で起こった化学テロ事件
- 犯人はカルト教団オウム真理教の信者達
- 多くの死者・負傷を出し未だに多くが後遺症に苦しむ
地下鉄サリン事件の背景

地下鉄サリン事件という日本中に衝撃を与えたテロ事件の背景には何があったのでしょうか。 そこにはオウム真理教を設立した「麻原彰晃(あさはらしょうこう)」の妄想的な野望と教団に対する警察の強制捜査への危機感がありました。
公証人役場事務長逮捕監禁致死事件のオウム真理教の関与が疑われていた
公証人役場事務長拉致監禁致死事件とは、オウム真理教によって目黒公証役場事務長が拉致・監禁・殺害され死体が遺棄された事件のことです。 被害者の妹はオウム真理教に入信しており既に多額の布施を教団にしていました。教団はさらに妹の所有物の土地・建物も含めた全財産を教団に渡すように脅迫し、妹は教団から逃げ出し兄の事務長に匿われました。 麻原彰晃らは妹の行方を探るために事務長を拉致・監禁し、過剰な自白剤の投与により事務長を殺害するに至り、さらに死体を焼却するなどして始末しました。
オウム真理教の強制捜査が予定されていた
複数の民間人が目黒公証人役場事務長の拉致を目撃していたことを受け、警視庁はやっとオウム真理教の捜査を始めることができました。 それまでもオウム真理教は警視庁管内で様々な犯罪を行っていましたが、警視庁は決定的な証拠がなかったため動けていませんでした。 目黒公証人役場事務長の事件によって初めて警視庁はオウム真理教の凶悪事件への関与を確信し、オウム真理教が強制捜査されることにになったのです。
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地下鉄サリン事件の目的は強制捜査を無くす狙いがあった

事件は警察の強制捜査を避けるために立案されました。 麻原彰晃は阪神・淡路大震災の影響で強制捜査が回避されたと考えていました。また同様の大事件が起これば再び強制捜査を回避できるものと考えたのです。 警視庁公安部にいるオウム真理教信者の情報から、麻原彰晃ら教団幹部は警視庁による強制調査が迫っていることの情報を入手し、これを回避するため地下鉄サリン事件を計画しました。
地下鉄サリン事件の概要

事件の背景と経緯がわかったところで、次に事件が具体的にどのように起こったのかを見ていきましょう。 事件はどのように計画され、実際に誰が何処でどのように実行したのでしょうか。
実行者とサリンの製造者
リムジンの車内で、科学技術部門の最高幹部であった村井秀夫を総指揮者にすることが決まり、サリンの製造可能性も確認されました。 地下鉄サリン事件に直接関わったのは、実行者、送迎者、サリン製造者でした。サリンを地下鉄の中に直接まいたのは林郁夫らの5人でした。 サリンの合成方法を確立したのは土谷正実でしたが、実際に地下鉄サリン事件に使われたサリンを製造したのは遠藤誠一でした。
通勤ラッシュの時間帯に千代田線、丸ノ内線、日比谷線で犯行
犯行は地下鉄千代田線、丸ノ内線、日比谷線の各車両内で行われました。丸ノ内線は池袋発と荻窪発、日比谷線は中目黒発と北千住発のそれぞれ二つの線が使われましたので、全体で五つの線で犯行が決行されました。 犯行は通勤時間帯の8時頃でした。サリンを入れたビニール袋を傘で突き刺してサリンを散布し、犯人はそもまま逃走するという手口でした。 犯人達は主に霞ヶ関駅付近で被害者が多数出るよう、霞ヶ関の幾つか前の駅でビニール袋に穴を空けました。
犯行は散布者と送迎者の2人体制で行われた
犯行は散布役と送迎役がチームを組んで実行されました。 千代田線は送迎役新実智光・散布薬林郁夫、池袋発の丸ノ内線は送迎役北村浩一・散布役広瀬健一、荻窪発の丸ノ内線は送迎役外崎清隆・散布役横山真人、中目黒発の日比谷線は送迎役高橋克也・散布役豊田亨、北千住発の日比谷線は送迎役杉本繁郎・散布役林泰男の組み合わせでした。 犯行が終わった後犯人達はテレビ放送で実行の結果を確認した後、多摩川で傘などの証拠品の処分を済ませた後帰還しました。
地下鉄サリン事件は甚大な被害をもたらした

地下鉄サリン事件は甚大な被害をもたらしました。死者は13人、負傷者は5,800人を超えました。まさに前代未聞の大惨事だったのです。東京消防庁、警察・検察、自衛隊などが総力をあげて救助活動や捜査、除染活動に注力しました。 では具体的な被害状況などを見ていきましょう。
多くの警察、自衛隊などが動員された
事件では東京消防庁が集中的に被害者の救助等にあたりました。延べで340隊・1,364人の人員を派遣しました。 一方捜査は警視庁が中心になって対応しました。 直ちに警視総監をヘッドとする対策本部が立ち上げられ、総監が直接陣頭指揮をとりました。
死者は13人
地下鉄サリン事件による死亡者は13名にのぼります。千代田線では2人、丸ノ内線では1人の死亡者を出しましたが、日比谷線では何と10名の死亡者が出ました。 特に北千住発の日比谷線での死亡者が8人と突出しており、サリンがまかれた列車だけでなく、全体で6列車から死亡者が出ました。 これは散布者であった林泰男が最も多くのサリン入りビニール袋を持参し、最もたくさんビニール袋に穴を穿(うが)ったことと、乗客が小伝馬町駅でサリンのパックをプラットホームに蹴り出したことにより、当駅に入ってくる後続の列車が次々とサリンの被害に遭ったためと考えられています。
負傷者は5800人を超えた
被害にあった地下鉄の入り口はまるで戦場のようでした。負傷者の数は5,800人を超え、路上に寝かされた多くの被害者は呼吸困難の状態に陥っていました。 症状が軽かった被害者はサリンによる被害であることに気づかず、治療を受けないで仕事に行った人もいました。それが原因でそうした多くの人は不必要に症状を悪化させてしまいました。 サリンの被害は乗客を助けようとした多くの人にも及びました。
後遺症に苦しむ被害者
事件にによって今日になっても多くの人が心的外傷後ストレス障害に苦しみ続けています。地下鉄に乗ることが不安でたまらないそうです。 また被害者の多くが目に何らかの障害を訴えており、疲れ目や視力障害が慢性的になっています。 被害者は癌にかかる割合が一般の人より高くなっており、事件からずいぶん時間が経過した後に癌を発症することも多いです。
地下鉄サリン事件の2日後オウム真理教で強制家宅捜索がなされる

オウム真理教の教団幹部達の目論見は見事に外れ、事件の2日後には全国のオウム真理教の教団施設25ヶ所で家宅捜査が実施されました。 家宅捜索では自動小銃や軍用ヘリ、サリンの製造に使用される薬品も発見されました。強行された強制捜査でしたが、オウム真理教に対する情報不足で1ヶ月後には捜査は行き詰ってしまいました。実際にサリンを散布した実行犯も特定できず、麻原ら教団幹部を逮捕する容疑が見つかりませんでした。 強制捜査後オウム真理教側は事件への関与を否定するために、様々な攪乱情報を発信しました。
林郁夫の逮捕をきっかけに捜査が一気に動く
事件の捜査が行き詰まりを見せる中で、林郁夫が全く別の窃盗容疑で逮捕されました。 林はかねてから麻原や教団に対する不信感を持っており、取り調べの中でサリンを地下鉄にまいたことを自白しました。 林は事件の役割分担などを自分で書き出しました。これによって行き詰まっていた捜査は一気に進むことになったのです。
オウム真理教関係者の一斉逮捕にこぎつけた
林の自白とメモによって、警察は「地下鉄サリン事件」をオウム真理教による組織的犯行と断定し、関係者の一斉逮捕にこぎつけました。 教団幹部達の一斉逮捕の前に地下鉄サリン事件で重要な役割を果たしたとされる村井秀夫刺殺事件が発生しました。これによって村井が持っていたはずの情報を引き出すことは不可能となってしまいました。 麻原はオウム真理教の教団施設で事件の首謀者として逮捕されました。第6サティアンの1階から2階への階段の天井部分にあった隠し部屋で、960万円の札束を抱えた状態で発見されました。
地下鉄サリン事件に関与した信者の多くは死刑、または無期懲役となった

地下鉄サリン事件を含む一連のオウム事件の裁判では、麻原を含む13名が死刑となり事件解決の糸口を作った林以下5名が無期懲役になりました。 サリン製造の補助者であった田下、佐々木、森脇も懲役刑を受けました。 菊地直子はサリン製造の補助者として指名手配され逮捕されましたが、証拠不十分のため地下鉄サリン事件としては不起訴となりました。
地下鉄サリン事件に関与した教団幹部の死刑は全て実行された

拘置所には死刑が確定した麻原ら教団幹部13人が収監されていました。 共犯の死刑囚は同時に死刑が執行されるのが通例ですが、物理的に3人以上を同じ刑場で同時に執行するのは難しいため、2人以下になるよう死刑囚が分散されるのが一般的でした。このため13人のうち7名が東京拘置所から別の拘置所に移送されました。 死刑執行は2018年7月6日と同月26日の二つのグループに分けて実施され、ここに地下鉄サリン事」を含むオウム事件に関与した幹部全員の死刑が執行されました。
地下鉄サリン事件の海外の反応

地下鉄サリン事件は日本では事件として扱われましたが、欧米では化学テロとして扱われ、「治安のよさを誇りにしていた日本にショックを与えた。」と報道されました。 現在でも諸外国の軍隊マニュアルでは化学テロの事例として大きく紹介されています。 一方で教団幹部らの死刑執行には世界から厳しい眼差しが向けられました。「麻原の死刑執行は支持者には殉教とうつる。」とする報道もありました。
地下鉄サリン事件のような凶悪事件を起こさないための対策

地下鉄サリン事件を切っ掛けに東京メトロをはじめ鉄道各社では監視カメラの充実とゴミ箱のスケルトン化などを進めています。今後はこれらの対策と併せて見回り警備の一層の強化なども必要です。 一方ではオウム真理教のようなカルト集団に対する監視の強化を行い、これらが凶悪な事件を起こす前に対応することが重要です。 また比較的知的レベルの高かった若者達が、なぜいともたやすく麻原に感化・洗脳され、オウム真理教というおぞましいカルト集団を形成することになったのかを追求することも、今後このような事件を根絶するためには必要です。
まとめ

今回は日本だけでなく世界的にも大事件となった地下鉄サリン事件を解説しました。手前勝手な妄想のもとに多くの人を死亡・負傷させ、今なお後遺症に苦しませている罪は他に類がないほど大きいといわざるを得ません。 このようなカルト教団を生み出したのもまた我々の社会であることを、今一度改めて思い致す必要があるのではないでしょうか。
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