安愚楽牧場は現物まがい商法で巨額の負債を抱え破産。口蹄疫問題や詐欺まがいの手法とは？

1分でわかる安愚楽牧場

安愚楽牧場の実態とは

高利回りを狙える和牛オーナー制度を謳う
牧場経営・詐欺まがいの商法が被害を広げる
経営陣は逮捕・起訴された

「元本保証で7％の金融商品があります」「日本人が大好きな黒毛和牛のオーナーになりませんか」この誘い文句に7万人が心踊らせました。投資を持ちかけた安愚楽（あぐら）牧場のずさんな経営体質と詐欺まがいの勧誘手法が、負債総額を4300億円にまで膨れ上がらせました。損害賠償請求が国家にまでおよぶ事件となりました。

安愚楽牧場の破産の時代背景

1990年代はバブル崩壊の影響が多くの人にのしかかります。景気が悪くなると日本銀行は企業の投資を呼び込むために金利を低くします。それは利息収入を生活の糧にしていたお年寄りには大きな問題です。銀行で満期を迎えても以前のように高い利回りの定期預金はありません。では、人々はどのように行動したのでしょう。

豊田商事事件現物まがい商法が問題となった

1980年代に発生した悪徳商法に豊田商事事件があります。高齢者の自宅に押しかけ金地金（金の塊）を売りつけます。代わりに「純金ファミリー契約証書」を渡しますが、実際には金地金の保有も運用もしていない悪徳商法です。多くの高齢者が被害に遭い、国内で発生した詐欺事件としては最大の規模でした。衝撃的だったのはマスコミの取材中に男2人が会長・永野一男の自宅マンションに押し入り、殺害して出てくる一部始終がテレビ中継された事です。

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和牛預託商法も規制の対象となっていた

和牛預託商法とは、まず牛の買主を募り集めたお金で和牛を購入します。その和牛から生まれた子牛を売却して配当金を支払い、契約終了時には和牛を買い取ることを約束するビジネスです。しかし実際は和牛を購入せずに、他の出資者への配当金に振り向ける詐欺商法が横行します。 1987年に豊田通商事件の反省から貴金属など特定商品の契約には一定のルールを設けた特定商品預託法が制定されています。1997年、この法律に家畜も追加されました。

安愚楽牧場の概要

安愚楽牧場は、のちに逮捕起訴される三ヶ尻久美子の亡き夫が1981年に栃木県で始めた有限会社安愚楽共済牧場がその前身です。和牛を育てて販売する畜産会社で、全国に多くの直営牧場と預託牧場（牛を預かって育てる牧場）を持っていました。その安愚楽牧場が始めた和牛オーナー制度が、のちに大きな社会問題になります。詳細を見ていきましょう。

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和牛預託商法で和牛のオーナー募集を行なっていた

安愚楽牧場では和牛オーナー制度を使ってお金を集めます。和牛オーナーは安愚楽牧場に契約金を払って雌牛を購入し、生んだ子牛を売却することで毎年配当金が貰える仕組みです。契約終了時には雌牛を売却し、元金が戻ってくる契約内容も魅力的でした。元本保証で高利回り、積極的にCMも流して有名人も雑誌や書籍で宣伝しています。また、日本の畜産業を守るために政府も応援しているとの誇大広告も載せています。

全国各地に牧場を開いた

1987年に岩手県の遠野市に県外で初めて直営牧場を開きます。その後も1988年に北海道に音更牧場、1993年には宮崎県に牧場牧場と全国展開を進めていきます。最終的には北海道から沖縄まで全国38か所の自社牧場と40以上の預託農家を持つまでになり、黒毛和牛を中心に13万頭以上の和牛を飼育していました。また、ホテルや食堂を併設した牧場や自治体や第三セクターとも協力してテーマパーク型の牧場など開園しています。

「あるじゃん」をはじめとする雑誌やCMで大々的に広告を打っていた

安愚楽牧場は人気の雑誌に広告を出したりＣＭを流すことで和牛オーナーを増やしていきます。雑誌「あるじゃん」「週刊ダイヤモンド」「レタスクラブ」などに広告を出します。その中でも1995年創業の「あるじゃん」は金融商品をわかりやすく説明する専門誌として一定の評価を得た雑誌です。牛の縫いぐるみを使い「あぐらの黒毛和牛はネットでもどうぞ」と流れるＣＭは効果的でした。

経営状況は厳しく自転車創業だった

2011年8月初旬、和牛オーナーの元に一通の手紙が届きます。そこには、宮崎県の口蹄疫（こうていえき）や福島県産牛肉の出荷制限が原因で支払い不能に陥った、との内容が記載されています。慌てた和牛オーナーが東京支社に集まってきた事で安愚楽牧場の破綻が世に知れ渡りました。破綻後の調査では、20年以上前から自転車操業が続いていた事が判明します。口蹄疫や原発事故の風評被害が破綻の原因ではなかったのです。

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牛の数をカサ増し、詐欺まがいの手法で契約を取っていた

安愚楽牧場は10万頭の繁殖牛がいて、その1頭づつに識別番号を付けているとの触れ込みでしたが、実際は6万頭しか存在しなかった事も判明します。 1頭の牛に2つの識別番号を付けるなどして牛の数を水増ししていたからです。配当金の支払いに窮した安愚楽牧場は、一般会員とは別にVIP会員と称して、一段と利回りの高い商品のオーナー契約を提案していました。和牛を買う予定もなくお金を集めていたなら、詐欺罪が成立します。

安愚楽牧場は口蹄疫に対して適切な対処をしなかった

口蹄疫は感染すると口の中や蹄の付け根などに水泡ができて破裂する法定伝染病です。発生した農場の家畜は殺処分しなければなりません。その口蹄疫が2010年4月中旬に宮崎県で発生します。安愚楽牧場では4月初旬に口蹄疫の疑いがある牛を確認していたにも拘わらず、そのまま放置し死亡日を改ざんした上で、感染牛を勝手に移動していたことも明らかになります。ずさんな経営体質が明るみにでました。

口蹄疫や東日本大震災に伴う原発事故で解約するオーナーが続出

2010年の宮崎県で発生した口蹄疫に続き、2011年には東日本大震災が発生します。その時の原発事故の影響で、福島県から出荷された牛肉より基準値を上回る放射性セリウムが検出されました。農水省は福島県全域で牛の出荷制限を発動します。度重なる事故で動揺した和牛オーナーからの解約が殺到します。解約に伴う資金の流出から安愚楽牧場は東京地方裁判所に民事再生の適用を申請しました。

安愚楽牧場は4300億円を超える負債を負い経営破綻

民事再生の適用申請を出した安愚楽牧場には2011年8月9日保全命令が下ります。しかし蓋を開けると驚きの経営実態がわかってきます。当初は約620億円の債務と発表されていましたが、実際の負債は4300億円もありました。オーナーからの出資金は返済が約束された借入金ですが、売上に計上されていたのです。被害者は7万人以上にのぼり、そのうち135人は被害額が1億円を超えています。

安愚楽牧場の破産に関連した裁判や経営陣の逮捕

不透明な経営内容が問題視されたことから民事再生手続きは行われず、2011年12月安愚楽牧場の破産が確定します。多くの被害者が旧経営陣に対して損害賠償を求めたり、監督官庁である農林水産省や消費者庁に国家賠償請求訴訟を起こします。 2013年、特定商品預託法違反で旧経営陣が逮捕されました。その経緯も見ていきましょう。

豊田商事事件は金の現物まがい商法。豊田商事会長刺殺事件の黒幕や関係のある大手ゼネコンの噂とは？「豊田商事事件」という名称を聞いたことがあるという人も、時間の経過と共に少なくなっているようです。「豊田商事事件」は多くの被害者を出しただけでなく、最終的には殺人事件にまで繋がる大きな事件でした。今回は「豊田商事事件」の概要や事件の背景、事件そのものについて解説します。

被害者が国に対し国家賠償を請求した

農水省が安愚楽牧場に立ち入り検査した時に牛の数か足らないことに気付いていれば、被害額が大幅に減額できたとの理由から、2014年5月に被害者1305人が国に対して65億円の国家賠償を請求します。その後も他の被害者からの国家賠償請求は続きます。預託商法を管轄する消費者庁が被害者の相談に真摯に向き合わなかったとの指摘もあります。被害者数が7万人以上にのぼり、数々の裁判が提起されています。

特定商品預託法違反で経営陣が逮捕された

実在しない牛の識別番号を使った契約書や虚偽の説明をしていたことから、2013年特定商品預託法違反の容疑で三ヶ尻久美子ら旧経営幹部が逮捕されます。 2013年に三ヶ尻久美子には懲役2年10か月、元幹部の1人には懲役2年4か月の実刑が言い渡されました。捜査当局は詐欺罪での立件も考えていましたが、事業主体が安愚楽牧場であり、繁殖牛を金融商品として取り扱っていた経緯から、こちらは嫌疑不十分で不起訴となります。

被害者が海江田万里に対し損害賠償請求を行なった

一部の被害者は民主党の海江田万里に対しても損害賠償請求を起こします。経済評論家時代の1990年頃に本や雑誌で安愚楽牧場のオーナー制度を宣伝していたからです。それを信じて購入した出資者が、海江田氏に約6億円の損害賠償請求を求めたのです。同氏の著作物には和牛オーナー制度申し込みの電話番号も記載されていました。しかし、海江田氏の執筆時には安愚楽牧場の破綻までは予想できず、関係も密接ではなかった事から損害賠償請求は棄却されています。

安愚楽牧場は湯浅商事に自社の牧場を売却した

被害数が多く、多額の牛の餌代も発生しており管財人は資産の保全と出資者への配当金確保に走ります。その結果、安愚楽牧場が所有していた40の直営牧場は、破綻後も飼料の供給を続けていた湯浅商事が購入します。また300以上あった預託農家については、未払いになっていた預託料と相殺した上で優先的に和牛を売却しています。直営牧場を購入した湯浅商事も取引先に順次譲渡しています。

現物まがい商法(オーナー商法)は危険な場合が多い

顧客に販売した商品を渡さずに受取証書などを発行し、業者がその商品の運用、管理、保管を行う「現物まがい商法」は、その内容を一般消費者が知ることには限界があります。今回の事件では、商品が「和牛」に当たります。安愚楽牧場の管財人が資産を精査した結果、240億円の残金を回収できます。管財人への報酬や諸経費を差し引いて、被害者に分配することができたのは出資金の5％程度でした。危険であるため、あやしい商品には手をださないことが一番です。