開催まで半年を切った東京五輪
東京五輪までもう半年を切った。 私も都知事として準備に携わったが、その過程で様々な問題が生じ、それを一つ一つ克服していった。たとえば、東京都外の既存の競技施設活用、新国立競技場の設計変更、五輪エンブレムの盗作問題などである。たいへんな苦労をしたが、国民が合意し、財源が確保できれば何とかなった。 しかし、今の人間の力では対応の仕様がないのが、自然災害と感染症である。
地球温暖化の影響が甚だしい
自然災害については、最近では地球温暖化の影響が甚だしく、オーストラリアなどで森林火災が長期に続いたり、南極で20℃という高温を記録したりしている。高温多湿な東京の夏は耐えがたく、IOCはマラソンと競歩の開催地を札幌に変更した。 近年は、日本列島が真夏に集中豪雨に襲われ、洪水の被害が出ることが多くなっている。今年の夏も同様な事態になれば、五輪大会の運営に少なからぬ支障を来すであろう。 もし東京でM6以上の地震が発生し、大きな揺れと津波に見舞われ、建造物が破壊され、人命が失われ、都市インフラが寸断されれば、五輪は中止せざるをえなくなる。
新型コロナウイルスの流行
そして、昨年末以来、現実のものとなったのが新型コロナウイルスによる感染症の流行である。 感染症については、私が都知事のときの2014年8月に、代々木公園で蚊に刺された学生3人がデング熱に感染したことがあった。渡航歴がなく、感染源が明確でないまま、最終的に都内で108人の患者が出た。 公園の消毒など、様々な措置を講じたことを記憶している。 国内でのデング熱感染は70年ぶりのことであり、東京都も対応に追われたが、東京五輪の準備を進める過程で当然、このデング熱などの感染症対策を万全なものとせねばならないと確信したものである。 さらにその年の秋には、西アフリカのみならず、ヨーロッパやアメリカでもエボラ出血熱の患者が出て世界中が大騒ぎしたが、エボラ出血熱は致死率が高いだけに世界中が震撼した。 東京オリンピック・パラリンピックには世界中から選手、観客が集まるが、同時に人間に危害を加える細菌やウイルスも集まる。インドアの競技場はエアコンの効いた密室空間であり、感染症が拡大する危険性が大きい。目に見えない敵と戦うという意味では、感染症はサイバーテロと同様に厄介なのである。
新型ウイルスの脅威
そういう心構えで都知事として東京五輪の準備を進めていたのである。 ところが昨年末以来、困ったことに新型コロナウイルスの襲撃を受けてしまった。新型ウイルスがいかに脅威であるかは、2009年に新型インフルエンザが流行したときに厚生労働大臣として対応に当たったので、誰よりもよく知っている。 過剰なくらいに、徹底した対策をとったので、批判も浴びたが、被害を最小限に食い止めたとして、WHOからも高く評価された。 武漢を震源とする今回の新型肺炎の感染拡大のプロセスは、新型インフルエンザのときとほぼ同じであり、多くの点で11年前の経験が参考になる。 しかし、新型コロナウイルスは、たとえば潜伏期間が3〜14日、人によっては24日と長いことや、無症状でも感染するという特質が、SARSやMERSや新型インフルのときよりも対応を難しくしている。幸いに毒性は弱いが、高齢者や基礎疾患(持病)のある者が罹患すると、重症になるきらいがある。