大学入学共通テストの中止、センター試験の継続を求める
大学入試センター試験は2020年1月実施分で終了し、翌年の2021年1月からは「大学入学共通テスト」が実施される「予定」です。 「単に名称が変わるだけ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。
仕組や内容面で大きな変更があるのです。
筆者や多くの専門家・識者は、この変更を「劣化」であると評価していて、大学入学共通テストの中止、現行のセンター試験の当面の継続を文科省・大学入試センターに要望するという活動を行っています。
この記事では、大学入学共通テストの問題点を筆者の専門である数学を中心に説明します。
英語民間試験の導入とその挫折
英語では、従来の2技能(読む、聞く)を問う試験から4技能(読む、聞く、書く、話す)を問う試験への変更が検討されていました。 利権がらみの一部の政治家・学者や経済界からの要請でこういう方向性が策定されたのではないか、という話を聞きます(真偽の程は定かではありませんが)。
筆者は英語の専門家ではないので詳細を述べることは出来ませんが、専門家によればそもそも4技能を共通テストという形式で適正に評価することは難しいことのようです。
また、仮にこの試験を「官」(=大学入試センター)で行えば、4技能試験は挫折しなかったかもしれません。
しかし、実際には大学入試センターで行う英語の試験では2技能(読む、聞く)のみを問うものに限定してしまい、かつこれに加えて英検やGTEC(ベネッセが実施)などの(大学入試センターが指定する)民間試験を受験するような仕組に変更しようとしたのです。 「民間試験は過去の実績があるから」というのが文科省の言い分なのですが、これには多くの問題があります。
英語民間試験の問題点
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「異なる民間試験の成績を比較して序列をつける」という無理な考え方
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実施会場数が十分でない(センター試験ほど会場数が多くない)
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受験料の負担(共通テストの費用とは別に発生)
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採点が適正に行われているかどうかが検証不能
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問題が回収されることに伴う自己採点の不可能性
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「民間試験運営団体が対策参考書を販売して利益を得る」という問題
など、問題点の枚挙にいとまがありません。 こうした問題点の列挙が、様々な形で2019年後半に断続的に行われました。結果、文科省はついに、2019年11月1日に英語民間試験の延期を決定しました。
ちなみに、ちょうどこの時期に2人の閣僚が辞任しました。筆者は「政権にこれ以上傷がつかないよう、英語民間試験を断念するよう、首相官邸から文科省に指示したのでは?」と推測しています。
国語・数学の記述式問題の導入とその挫折
英語民間試験に並び、「変更」の大きな目玉として「国語・数学の記述式問題の導入」がありました。 これまでのセンター試験は、すべでの教科・科目でいわゆる「マークシート」形式の試験を実施していました。これに対して、一部の人が「マーク式では思考力を問えない」と主張したのでしょう。それにより新テストでは国語・数学において問題の一部が記述式問題を出題することになりました。 「マーク式より記述式の方が良い」というのは、一見もっともな意見であるようにも聞こえますが、これを共通テストで導入する、ということには以下のような大きな問題があります。
記述式問題の採点をどうするのか
センター試験は毎年50万人以上が受験する、とても巨大な試験です。マークシート形式であれば、この採点は機械が行うので、容易にかつ短時間で行えます。しかし、記述式問題の採点は機械では行えません。
文科省はこの採点業務を、一般競争入札を経てベネッセ(の子会社)に約61億円で委託しました。本来「官」で行われるべき採点を「民」で行うことには、適正性に疑義があります。また、報道によればベネッセの採点は「学生バイト」などを雇って行う、とのことでした。
学生バイトが大学入試を採点する、というのは前代未聞です。また、50万人規模の受験生の答案の採点を短期間に、何より正確に行うことは不可能です。採点基準のすり合わせ、想定外の答案への対処、採点ミスを洗い出すチェックなどが大変すぎるからです(おそらく、文部科学省やベネッセは、この大変さをかなり軽く見積もっていたのではないかと推測します)。
文科省は、大学入学共通テスト実施に向けて、2017年と2018年の計2回、試行調査(プレテスト)を実施しました。第1回の試行調査では、ある程度の文章量の記述を要求する問題を出題しましたが、この試験での正答率の低さ(2.0%~8.4%)、および採点のしやすさを考慮したのか、第2回では記述量の少ない以下のような記述問題が出題されました。
例) 第2回試行調査 数学I・数学A 第1問[1](1) 「1のみを要素にもつ集合は集合Aの部分集合である」という命題を、記号を用いて表せ。解答は、解答欄(あ)に記述せよ。(正答例:{1}⊂A)
しかし、これはもはや記述式問題ではありません。これであればマークシートで十分問えますし、ベネッセに61億円払って採点してもらうような問題ではありません。